ライナーノーツ - synergy is dead

 ――"Synergy" means interaction or cooperation of two or more agents to produce a combined effect greater than the sum of their separate effects.

 ――血ナニーとはオナニーのし過ぎ、もしくは性病により精液に血が混じった状態でのオナニーのことなのだ!!!

 「synergy is dead」。これは今あなたが手にしているこのコンピレーションアルバムに冠せられた、非常に含蓄に富んだセンテンスである。直訳すれば「シナジーはしんだ」となる、この僅か3つのフレーズからなるセンテンスを把握した瞬間、あなたは何を想っただろうか。

 このセンテンスに関する非常に個人的な話をさせていただくと、時間は2004年の11月に遡る。
 私はアルバイトを終えて帰途についていたところであったが、港町という性質ゆえか某駅前の妙に不自然な場所に明らかに日本人ではない壮年の男性が座っていたのを認めた。
 本来ならばさっさと素通りして家を目指すなりゲームセンターで道草を食うなりするべきだったのだが、その男性の蒼い瞳の色とフサフサした髭に吸い込まれるように、私はその男性の目の前で立ちつくした。
 男性は私の存在に気付いたらしく、男性の傍らに置いてあったスケッチブックのようなものを掲げ、私に見せつけてきた。そこには不格好なひらがなで「おかねをください」とあった。
 軽い心苦しさと気まずさを同時に感じつつ、自分の財布に冗談抜きで二桁の日本円しか存在していないという悲しすぎる事実を思い出した私は、半ば強引にその場を後にしようと男性に背を向け…ようとした。
 その瞬間、スケッチブックのようなものが風のいたずらでふわ、と1枚めくりあげられた。
 「おかねをください」と書かれていた紙のその下には、達筆なアルファベットでこう書かれていた。

「Save the synergy」

 全く意味が分からなかった私は、慌ててその男性にこの文章はどのような意味かと拙い英語で尋ねた。
 男性はただ、ゆっくりと首を振り、そして大きな溜め息を一つ吐いたのだった。
 この瞬間、私は確かにシナジーの消失を理解した。シナジーイズデッド。
 その日以降、シナジーの消失という非常に漠然とした現象は常に私の頭を苛み続けてきた。
 何のことであるかさっぱり分からないにも関わらず、その厳然たる虚ろな事実だけが確かに存在しているという明らかな矛盾構成。三日三晩その意味を模索し続け、その結果さっぱり意味が理解できなかった私はそれ以上の思索を放棄し、とりあえずこの「シナジーの消失」を広く他の人々に認知させる方法を模索しだしたのである。

 さて、このCDには約8名によるおよそ16曲の作品が収録されている。
 ここに名を連ねる皆様におかれてはお互いの認識はおろか、コネクションも非常に不透明な曖昧模糊とした関係がその軸にある(もちろん、例外も存在するが)。
 特に明文化されたコンセンサスなど存在するべくもなく、その有様はそれぞれの曲を聴いていただければあまりに『雑多』な内容であることを本能的に実感できるだろう。
 そう、ここにシナジーは明らかに存在していない。実際に収録曲として集ったこれらの音楽を全て聴いてみて、相乗効果など望むべくもないと私は確信した。

 しかし、シナジーの不在は果たして良からぬ事象であるのだろうか?
 なるほどシナジーがもし存在していれば、本来引き出されるはずの結果以上のポテンシャルをこの作品に芽吹かせることは決して不可能ではなかろう。
 しかしそのようなポテンシャルが芽吹いたからと言ってどうなるものでもない。
 ここに集った何もかもがバラバラな曲の集合体をあなたはひたすら聴取するだけで良い。
 何か新しい価値を見出そうとするだけそれは時間の浪費というものである。

 このような書き方をしては非常にネガティヴに受け取られる可能性はあるだろう。
 しかしそれは誤解というものだ。どのような手段でもいい、あなたがこのCDに収録された曲それぞれをピックアップしてみた時、そこに込められた圧倒的な存在感、あるいは予想を上回るクオリティを見出すことさえできればそれで構わないのである。
 コンピレーションアルバムとしての完成度は決してその1枚のトータルコーディネイト性のみに委ねられるものではない。あくまでカタログ的な楽しみ方を選択するのも一興ではなかろうか。
 そのような意味が、このアルバムタイトルには込められているのだ。

 と、冗談はこのくらいにして、各曲にごくごく単純な補足のみさせていただこう。

1.-intro- / Metaphone
「予感」をテーマとしたアンダーグラウンドなサウンドコラージュ。

2.DENIM (ELECTRO SHISUGI MIX) / 40Xさん
原曲へのリスペクトが込められた、軽妙なリズムと疾走感に支えられたエクスクルーシヴなテクノトラック。嫌が応にもリスナーに伝わるであろうコンポーザのキャリア・力量は流石と言うべきか。

3.hupnocraun / dok
深い空間を想起させるイマジナティヴなテクノ。ミドルテンポに規定されたBPMゆえか、地に足のついた無難な完成度を伴っているイメージがある。

4.Freedom Flyer / 焼魚
何もかもが斬新なハッピーハードコア。

5.Synergy Reflect / Froze
哀愁感に満ちたコード進行が印象的なトランスチューン。

6.109 TERRA WAROS (Melon and Strawberry rmxed) / CURRY
ひたすら畳み掛けてくる和音とアシッドなベースのうねりとの競演が面白いミニマルテクノ。ふとしたタイミングで奏でられるピアノの旋律も曲が持つ怪しげな雰囲気の増幅に一役買っている。

7.-interlude- / Metaphone
「予感」をテーマとしたアンダーグラウンドなサウンドコラージュ。

8.Zeitvertreib / Rauch
コンポーザの嗜好性が大いに反映されたスピーディなドラムンベース。表面的なイメージに騙されることなく、奥底に秘められたスピリチュアルなメッセージを是非とも感じ取っていただきたい作品である。

9.Nucleotide / dok
「hupnocraun」とはうって変わり、非常に速いBPMでリスナーを攻めたてるハードコアナンバー。ノイジーな方向に傾きすぎることなく、いわゆる「かっこよさ」への意識が感じられる。「GAME」へのリスペクトと「冥」へのアンチテーゼを同時に込めた中盤の展開を聴けば、コンポーザの慧眼に恐れおののくことになるだろう。

10.ぬーすたいるぺきし / dok feat.MC MASA
NU STYLE GABBAとの恐るべき異種交配に選ばれたのは希代のトップランカーの情感こもったシャウト。ジャンルが持つエッセンスの掬い上げ方と音ネタのセンスに可能性を感じること請け合いである。

11.VERMILION / 安産体型うにたま
ロココテクという唯一無二なジャンルへの畏敬と愛情が惜しみなく注ぎ込まれた1曲。これ以上の説明は何ら意味は成さないと思われる。

12.touch the sky / さちこ
本作のクライマックスを飾るエモーショナルなトランスナンバー。鬱蒼とした希望という一見すると相反する要素を見事に融和させた主旋律を武器に、リスナーを高みへと誘う完成度の高い作品。

13.Light of affection (3am sunset mix) / Froze
「あの曲」をモチーフとした、シンセパッドと風音をイメージさせるSEが優しいチルアウトミュージック。ゆるやかな曲展開に身を委ねれば、リスナーの心をしっとりと和らげてくれるはずである。

14.「音ゲーマーのための4つのピアノ小品集」より 3. ☆shining☆ / CURRY
メロディックな原曲の特徴をふんだんに生かしたピアノソロ。ピアノ譜面への単純なコンバートではなくドラマチックに施されたアレンジメントに耳を傾けていただきたい。

15.-outro- / Metaphone
「予感」をテーマとしたアンダーグラウンドなサウンドコラージュ。

 そしてBonus Trackにはとして大桟橋 (Thank you natch mix)が収録されている。
 原曲の構成を完全に踏まえたアレンジも楽しいが、やはり白眉はわーまー氏による歌唱であろう。
 是非とも笑って流していただきたい。