ライナーノーツ - Silent Majority

Q.「デニムしすぎ?」からリリースされてる音楽CDってイケてる? イケてない?

 これまで、我々「デニムしすぎ?」は3枚のコンピレーションアルバムを発表してきた。音ゲーを、ひいては音楽を愛する気持ちを作曲への衝動へと昇華させながら。その思いに嘘や偽りは無い。過去の作品を手にとってくださった方々なら分かると思うけれど、(予感をテーマとしたサウンドコラージュを除いた)すべての楽曲に込められた気迫や勢いが、きっとあなたの耳にダイレクトに伝わったものと心から信じている。あるコンポーザは直感がもたらしたインスピレーションを生かし、あるコンポーザは「これだ」と確信したマテリアルを最高の技術でもって磨き上げる。アプローチは異なっても、どの楽曲も豊かな「情念」で満ち満ちている。ついでにいえば、こんな素晴らしい作品集にケチがつく要素など無いものと思っていた。

 うーん、今回は簡単だとぼくは思っていた。だって、僕らが発表してきた作品は、今まで書いてきたように「作りたいものを作った」ことによって生み出された、言わば結晶のようなものだからね。そんな素晴らしい作品たちがイケてるかどうかだなんて、考えるまでもない。けれど、今日の同人音楽というフィールドを形成する土壌がどのように均されているのか、最近の「デニムしすぎ?」に対する風当たりなども踏まえてどんな風に考えているのか、それが探りたくてこのテーマを掲げてみました。

 するとあらら、不思議。寄せられたのは厳しいご指摘・批評のメールばかりだった。なぜなのかしらん? というわけで、今回は多数を占める「イケてない」派からいってみよう。

 「イケているかイケていないかなんて個人個人の判断に委ねられるものであって、単純な二元論に還元できるものではない。それを前提として、僕はあなたたちの作る音楽が好きではありません」(住所不明・課長代理のネットラジオが痛いさん)。「コテハンたちが作りたいものをどしどし作っているだけで、作品としてテーマや一貫性が感じられない」(横浜市戸塚区・インスパイヤさん)「気に入った曲があるにはあるが、それはコンピレーションアルバムとしての評価に直結するものではない」(横浜市中区・妖刀村雨さん)「友情ごっこの産物ならいらない。クリエイターとしての自覚を持って活動してください。」(横浜市都築区・さんさんさんさわやか三組さん)

 ふー、びっくりした。でも、批判してくれたみんなの意見はほぼ一点に集中している。作りたいものを作ってるだけだから、イケてるわけがないというもの。それ、ほんとなのかなあ。実際に曲を聴いてみよう。(敬称略)

1.けそ - 指名打者たけし

曲の構成や使用されている音、そしてタイトルに至るまで、あらゆる要素がリスナーの想像力をかき立てる。2分にも満たない短さの作品でありながら、無数の物語がここに在るのではないかと思わされるほどの完成度だよね。そんな素敵な楽曲でこのCDは幕を開きます。

2.QUADRA remixed by dok - Deep Clear Eyes(Noel mix)

まさに指名打者!? beatmania史上に燦然と聳えるあの名曲のリミックスだね。原曲のジャンルはそのままに生かしながらも、原曲には無いピアノのフレーズや、beatmania IIDXのドラムンベースといえば…な"あの人"を髣髴とさせる音が使われていたりと、なかなかチャレンジングな試みがなされている。

3.ka-ya - leisure

勢いはそのまま続きます。ドラムンベース大好き!なコンポーザによるjazz stepな雰囲気をたたえた曲だけれど、どうやらこの曲は過去に作った曲のお蔵だし曲らしいよ。けれども曲全体から溢れ出る怪しいムードはまさに定石といった具合で、安心して聞ける一曲だね。お蔵だしゆえの音質の悪さに関してはご容赦くださいね。

4.dok respect for Kaito - suspension

怪しげなムードを引き継いで、ヒロシワタナベのディープハウス寄りな名義である"Kaito"へのレスペクトがふんだんに込められた曲が来ます。重いムードで始まりつつ、少しずつ明るい何かが湧き出てくるという流れは、深い闇から一条の光を見出そうとする、そんな音楽の意識が感じられるかのようだね。

5.ka-ya - noctiluca

光を取り戻したかのような感覚で次に襲い掛かってくるのは、ドラムンベース大好き!なコンポーザがドラムンベースから距離を置いて制作した意欲曲。ボッサな空気を前面に押し出したチルアウトなアプローチ…でありながら官能的なピアノフレーズが乗っていたりと、ドラムンベースからは距離をおけても、やはり怪しさはどうしてもコンポーザの体内から、そして毛穴から滲み出てしまうようです。

6.Froze - A Logical Forest

真のチルアウトはこちらでお楽しみください。ノンビートではないにも関わらず、休息を求めるリスナーにとって決して邪魔にならない絶妙な具合のリズムに乗せられた、ギターやピアノの音色がバレアリックさを醸し出す逸品だね。非常にナイスな含意を匂わせる曲のタイトルもまたインスピレーションを刺激してGood!だと思う。

7.焼魚 - Sprawl

休息の後には怒涛の展開が待っています。毎回異なったアプローチを見せてくれる焼魚による、コンテンポラリーな空気を存分に吸い込んだ上で独自の解釈で吐き出されたシンプルでありながらイクスクルーシブなトラック。無駄を削ぎ落とすことで構築美を際立たせようとする姿勢は、ともすればクリック/ミニマルへの接近とも解釈が可能で、中盤におけるスペーシーなSEとのリズムの絡みは、ここ数年で俄かに注目度が高まっているSleeparchiveによるトラックをも髣髴とさせる。これからの作曲の方向性を占う上で決して欠かせない、とても重要な意味を持った曲となるんじゃないかな。うん。

8.けそ - わりとミニマルかもね

タイトルで謳われているようにミニマル…と思わせるイントロが一転して、ノイズの発生すら辞さない強烈なキックが曲を支配しながらも、ミニマルな構成は維持されているという、これまでにありそうで無かった音楽がここに生み出されたよう。多作で知られるけそだけれど、その膨大な楽曲の中でもかなり上に位置する完成度を誇っている曲なんじゃないかなと思います。

9.u.n.i-Q VS SPIKEHEAD respect for Kakuta & Ishikawa - ErAseRmoToR RE:sPeCt -rage against usual REINTERPRETATION- (DUE AFTER TOMORROW MIX)

ハードコアな曲の流れを引き受けるのは、タイトルから汲み取っていただけるであろう、近いようで遠い2曲による異形のマッシュアップ。2分半という短い曲でありながら、2分半ゆえに表現し得る濃密な世界観という因果関係に、beatmaniaがそのまま内包するディレンマが垣間見えるようだけれど、見事に克服しているよね。それでありながら、終盤でこの上なくエクスタティックな展開とともに現れる"あの音"にニヤリとさせられることは請け合い。コンポーザのユーモラスなスピリットを感じられるはずだ。

10.fjk-blender - ANDROMEGA (Sparkling mix)

BPMは落ちてもテンションは下がらない。前回のトラブル(については13曲目のコメントを参照されたい)にも懲りずに参加してくれた新進気鋭のコンポーザによる新曲は、かのPSYCHEDELIC GOA TRANCEを、リズム隊の持ち味はそのまま生かしつつ、また別の姿を現出させんとするノリの良い作品。原曲を生かし過ぎず壊し過ぎずなリメイク作業はコンポーザのセンスが問われる部分だけれど、後半で現れる力強さを感じさせるメロディラインに非音ゲーな某ゲームライクな味を感じるのは気のせい…ではなさそうだ(笑)。

11.satsh - Halcyon

前回に披露してくれた予想外のアプローチから一転して、王道の中の王道をゆくトランシーなナンバーがこのCDのクライマックスを飾ります。タイトルに据えられた、眠りを誘う効果があるとして知られる薬品の名前で僕はどうしてもOrbitalの同名曲を思い浮かべてしまうんだけれど、あの曲のどこか病んだ雰囲気とはかけ離れた世界観がここには広がっているね。微塵も迷いを感じさせない造りに裏打ちされたコンポーザの技量に酔い痴れてください。

12.RESP - Lullaby -Freezing Atmosphere-

カーテンコールはしっとりと。訃報の記憶も未だ新しいあのユニットによる作品のピアノカヴァーですが、この曲に余計な言葉は不要でしょう。

-bonus track-
13.FJK-303 - era (sad mix)

前作「TENSION UP」で同じ曲を収録してあるけれど、実は誤ってデモトラックが入ってしまっていて、正式版を当サークルのホームページで公開していたんだけれど、この度、改めて収録することになったんだ。特にクレジットは記されていないけれど、こちらが本物の「era (sad mix)」ということでご理解ください。並びに、この件について爽やかに流してくれた上に新曲を提供してくれたfjk-blenderさんに重ねてお詫びと感謝の意をこの場でお伝えします。

-ultra bonus track-
14.けそ - チーマー

「予感」を感じさせる曲ということもあり、次回作への布石といった意味合いを兼ねて、特別なボーナストラックとして収録してある。この曲を何度も聴いて、次に当サークルからドロップされるかもしれない作品に思いを馳せて欲しい。

 ぼくはつぎの作品で、現在の日米関係と同じくらい「デニムしすぎ?」のクリエイティヴィティが重視されることになると思う。すでに「デニムしすぎ?」はこの混沌っぷりや好き放題具合が一つのアイデンティティーになっているのだ。ダメだろう、イケてなかろうというのは一見強そうだし簡単だ。でもそうすれば、「デニムしすぎ?」というサークルの活動は失速することになるのだろうか。

 今回のこたえは数字のうえでは「イケてない」派が圧倒的だったけれど、応募しなかった多数のサイレントマジョリティを考慮にいれて決定させてもらいます。「デニムしすぎ?」発の音楽CDはイケてる。

 あたりまえの話だよね。メールをくれた「多数派」はあまりネットの情報に踊らされないほうがいいのではないかな。では、最後にシンプルなメールをひとつ。

 「夢みたいなことだとはわかっているけど、『デニムしすぎ?』が、というよりは、同人のフィールドでクリエイトされる全ての音楽がイケててくれればいいなと思ってます」(横浜市磯子区・ヨタマック食べたいさん)。別に夢なんかじゃないよ。ぼくだって、米やんだって、それにその他大勢の地球人がそう願っているのだから。