■インタヴューと銘打ちますが、あまり肩肘張って頂かずフランクな感じで色々と伺えればと思います……好きな食べ物は何でしょうか?
SLAKE:それは、ギャグで答えた方がいいの?普段そんな質問されたことないから、ギャグ狙いでたくあんとか答えてちょっと外してるみたいな。

■女性ファンのウケは良いかもしれませんが(笑)。普通に答えて頂くと何でしょう?
SLAKE:普通に答えると……分かった、高級懐石。

■それは意外ですね。よく行かれるんですか?
SLAKE:最近ちょっと良い温泉に泊まったりするのが趣味になっていて、そこで出される料理を頂いているとこれ DJ と同じだなと。 DJ がフロアをロックするように、料理人は人の味覚を知り尽くしていて完全にコントロールしている所とか。良いお店で良いメニューが出されると本当に感動させられますね。

■ちょっと良い話に着地できましたので、このような感じで進めさせて頂ければと思います。初のコミックマーケット※01会場はいかがでしたか?
SLAKE:あれは……凄かったね。欲望のまま悶々としてあれだけの人がごった返している中で、被災地の状況なんかもそうだったけど、外国だと暴動でも起きそうなのに皆が整然と行動していて、日本人特有のただならぬエネルギーのような物を感じましたね。あと、 CD を出しているサークルでも何かこう、女の子が包帯を巻いて血を流しているみたいな…

■「少女病※02」などですね。ストーリーありきで世界観を重視した音楽をリリースするサークルとして有名です。
SLAKE:ああいう病んでるというか、 マッドなのがあれだけ多くの人に求められているという状況が、これが現在の日本の姿ですと(笑)。自分が狂うのは嫌だけど狂ったものを求めるみたいな、自分も音楽で求めるものは同じだけど。

■自分のようなオタクも狂ってますが、方向性は異なれど SLAKE さんも狂ってるということで。
SLAKE:あとお祭り効果とでも言うのか、見たこともないようなものがたくさん置かれているから自分の興味が刺激されて、あれだけの数のコンテンツが並んでると自分の嗜好と近いものは何かしらあって、 CD なんかもかっこ良さそうなのもあったみたいだし。あの場の雰囲気は危ないなと。

■夏にまた開催されるわけですが、また行かれますか?
SLAKE:もちろん何かしら出したら行こうと思うけど、今のところは次どうしようっていうのは未定だから…。身も蓋もないけど、今回のが大量に売れ残ったら「あっ、売れないんだ」でそれまでだろうし、売れればまた次に繋げようという気持ちになるので。あとどんな形になるか、そもそもやるかも分からないけど、弟をデビューさせようかなと。

■弟さんがいらっしゃるんですか。しかも作曲を?
SLAKE:曲を作っているということは最近になって知ったんだけど、音楽性としてはアンビエントみたいな。もともと美術系の学校に通っていて絵の道を志していたみたいだけど挫折しちゃって、そしたら気付かないうちに音を作ってた。若い頃に Aphex Twin※03アンビエントワークス※04に凄く影響されちゃったみたいで、それを引き摺ってる感じの音だった。

■兄がテクノで弟がアンビエントというと Richie Hawtin※05※06を思い出しますね。たしか Plus 8※07 からアンビエント寄りの mix ※08をリリースしていました。どのような音か気になりますので、音源の発表を楽しみにお待ちしております。(ここでコーヒーが運ばれてくる)今日はすみません、お忙しいのお呼び立てしてしまって。
SLAKE:でもここ※09有名なお店だよね。確か名古屋発祥で安い料金で長居させるというか、年寄りの方や学生をターゲットにした時間帯っていうのをそれぞれ設定してあってバランスが凄い…って「カンブリア宮殿※10」で観ただけなんだけど(笑)。あれ面白いから録画してる。

■番組のどういった所がお好きなんですか?紹介されるビジネスモデルとか?
SLAKE:村上龍※11に興味がある…わけじゃないけど、「コインロッカーベイビーズ※12」の世代だから何となく観てます。

■読まれましたか?
SLAKE:読んだけど、内容はすべて忘れました。

■ちょっと個人的には掘り下げたいところですが本題からいよいよ外れそうなので、今回の CD についてお伺いします。制作に当たって最も大変だったところを教えて頂けますか?
SLAKE:やっぱり 10 年以上前…あの頃なんてNetscape※13 がこれからの Web の覇者だなんて言われていた時代で、 AKAI※14 のサンプラーを使って曲を作っていて、その頃の音源だから音がとにかくショボくて。そこを補って今時の音質に合わせようとするのが本当に難しかったですね。元の曲の素材を生かした割合は少ないんじゃないかな。映画のリメイクみたいなノリで作ったから音は結構差し替えてあります。そういう意味だと元の曲を知っているからこそ楽しめる部分はあるだろうし、とは言え今回初めて触れる人にも満足してもらえるようにという所は意識したので。

■聞いた方の感想をいくつか見ましたけど色々な受け止め方をされているようで。音がエレクトロ寄りという感想を書いている方もいらっしゃいました。
SLAKE:今じゃ解釈なんて多様化しているからね。どこだったか委託先のページを見たらテクノって書かれてたし、四つ打ちじゃないのに。

■もしかすると音源に触れる前に紹介文を書いて頂いたのかもしれません。ビートマニアの SLAKE といえばテクノでしょ、といったノリで。
SLAKE:それか、忙しかったからジャケットが青っぽいからテクノ、みたいに決めたんじゃない(笑)。

■今回は RE-EDIT という、完全なオリジナル作品ではなく再発といったニュアンスの強いリリースとなったわけですが、ともすれば再発商法といったネガティヴな受け止め方をされるリスクもあったかと思います。
SLAKE:最初は音源を弄ったりせずそのまま出そうかとも思ったけど、いざ RE-EDIT に着手してみたら本当に大変で。新曲だったら使いたい音をそのまま使えば良いけど、今回のような場合は音を差し替えてはタイミングを合わせてといった所が特に苦労しましたね。マスタリング用のプラグインで、最初はレベルを上げれば大丈夫かなぁと思ったけど、実際に上げてみると音が割れてしまって、このままじゃダメなんだなと理解してそこから音を一つ一つ差し替えていきました。

■私見ですが、 SLAKE さんのファンの皆さんは SLAKE さんにもっと硬派というか、狂った音を出してもらうことを求めている向きがあるように思います。
SLAKE:皆狂ってるのが好きなんだ?なら次はそういうのを出せるように…と思ったけど今は前ほどは狂っていないのでそういうのは作れないかも(笑)。今はマトモになりましたって記事には書いておいて(笑)。

■もう狂ってないんですか…。それは何か震災のような大きなきっかけがあっての結果なのか、あるいは単純に年をとったからということなのでしょうか?
SLAKE:年をとったからじゃないかな?でも震災で物事の考え方は大きく変わりましたね。人生の中で一番ショックな出来事だったというのもあるし、あの後の国内の混乱っぷりを見て日本ってこんな酷い国だったんだなと。物凄い顔をしたこの国の暗部が一瞬だけ顔を出してすぐにシュッと引っ込んだかのような、その地獄のような顔が相当ヤバいなと。…でも最近は平穏を取り戻したというか、落ち着いてコメダ珈琲なうでカフェオレ飲んでます、みたいな(苦笑)。

■となると、今回の CD 制作においてはその辺の意識はあまり影響していなかったと。
SLAKE:してるしてる、全部してるよ。今回の制作に限らず、音作りに影響してるなって思うのは、今のうちに何でもやっておこうって思った。いつ死んでもおかしくないっていう意識が芽生えたから、前ならこういうリリースもちょっと…って躊躇したかもしれないけれど、今やれることなら何でもやろうと。あと震災からは離れちゃうけど、自分って労働者階級だからコンピューターを使って曲を作ってるっていう自覚を持ってる。

■労働者階級ですか。
SLAKE:アメリカのゲットー※15なんかと比べたら全然だけど、富裕層って呼ばれるような人なら例えば大学卒業して音楽理論学んでバイオリンやってましたみたいな人がいる傍らで、そういう人たちには負けたくないっていう、雑草魂みたいなものを持って曲を作ってる側面はあるかもしれない。

■ちょっと音楽全体の話にシフトしてきたので、ここで 2012 年に良く聞いた音楽などをお伺いしても良いでしょうか?
SLAKE:去年は Brainfeeder※16 周りが特に良かったかな。あとはやっぱりダブステップをよく聞いてた。

■一口にダブステップといっても色々と枝分かれしていますが?
SLAKE:皆がよくバカにしてる Brostep※17 みたいなやつね。最近は少し飽き気味だけど変態度としては凄かったかなと。クソって言われるほど凄いというか、 Flying Lotus※18 なんかもアングラなレーベルの人からクソって言われちゃってるみたいだからね。アングラの宿命なのかな、アンチ・メジャーみたいな。でも前にちょっとメジャーなパーティに顔を出してみたら綺麗なお姉ちゃんが DJ やってたけど音はつまらなくて、でも逆にアングラすぎるというのも考えものだけど。

■そういえば SLAKE さんは例えば SNS のようなネット上での活動と距離を置いている印象がありますが、これは意図的にそうされているのでしょうか?
SLAKE:意図的っていう部分もあるけど、追いつけていないっていう部分もあるかもしれない。そもそも mixi なんかにしても自分は一度も日記を書いたことが無くて、ああいう空間で自分の最も綺麗な部分や楽しい部分を人に見せつけようみたいな風潮が耐えられなくなって、自分にソーシャル系のサービスは合わないかなと。そしたら Facebook にも乗り遅れちゃって、アカウントはあるものの活用出来ていないっていうのが現状かな。本当は「ダイ・ハード※19」みたいに技術を駆使して Twitter で信号止めたりしたいんだけど、でも仕事で嫌というほどコンピューター漬けになってるのにプライヴェートでも PC に触ってっていうのはやっぱり疲れちゃう。疲れない?

■自分はそれが当たり前になっているので全く苦ではないですね。自分の上司なんかは家では PC を触りたくないと言っていますが。
SLAKE:そこがやっぱり世代の違いなんだろうね。でもそうやってネットが浸透して dommune※20 みたいに現場の音を家で楽しめるようになって、楽しみ方が増えるっていうのは良いことじゃないかな。

■クラブの現場とネットを介した中継は別物という言説をよく目にしますが、同じようなお考えをお持ちですか?
SLAKE:よく現場に行かないと勿体無いとか言われるけど、現場には行かなくていいです、近付かない方がいい、それより就職活動しろ(笑)。

■肝に銘じておきます(笑)。
SLAKE:昔は高校の頃に周りに打ち込み好きな友人なんてほとんどいなかったからね。そういった過去も踏まえて、今だって伝統芸能みたいに国から認められた芸術であれば体制側がサポートしてくれるけどこんなマイナーな音楽じゃ期待するものでもないし、音楽やってる方の産みの苦しみみたいなものはあるかな。前ほどは聞かなくなったけど EDM※21 なんかも好きだし前はトランスも好きだったし、年をとったからなのかそういうメジャーな音についても理解できるようになってきて、派手な音を好むという訳ではなくて多様性を認めることができるようになったというか…。色々な大人の人を見てきて、こうやってイケイケな生き方もあるんだなと。少し高級な温泉なんかに行ったりしてセレブの人なんかに遭遇したりすると、なるほど大人たちはこうやって愉しんでいたんだなと、最近やっと分かってきた(笑)。

■冒頭でも懐石料理のお話が出ましたが、例えば去年訪れた温泉で印象深かったスポットなどはありますか?
SLAKE:ここで具体名は出さないけど、良い旅館はとにかく建築が凄い。角度から何まで全てが計算されて、本来の周りの景観を全く見せないことでここ何処の国?って思わせるほどにコントロールされていたりして。建築が好きなのかな、海外の凄い建物なんかを見ると圧倒させられて、世の中には音楽より凄いものがあるんだと(笑)。音楽より温泉が好き。

■少し話が危険な方向に行きそうなので軌道修正させてください。ファンから頂いた質問で、曲のタイトルはどのように付けているのかを知りたいとのリクエストがありました。
SLAKE:それこそ中二病っぽいというか、カッコつけて付けるようにしてます。インストだからというのもあるかもしれないけれど、まずタイトルありきで曲を作ったということは一度もなくて、出したい音で曲ができあがってから単語を並べて…

■そこで出てくる単語にしても、何かしらインスピレーションの源になるものがあるのではないかと思います。他の音楽だったり映画だったり…
SLAKE:自分が知ってる単語です(笑)。英語力が無いので自分が知ってる単語を全部出しましたみたいな。別に DJ KRUSH※22 みたいに和風で売ってる訳じゃないから基本的に日本語のタイトルを付けるってことは無いし、「蝶の羽」なんてのもあったりするけどあれはまず作ってもらった歌詞ありきでそのまま決まったもので。

■既に巷では SLAKE さんの仕事として認知されつつある気がしますが、「今日は今日でえがったなゃ」なんてのもありましたね。
SLAKE:それも歌詞があってのものだから。そういえば shinpei 名義では何曲くらい作ったんだったかな? shinpei っていう名義は youhei※23 に対抗して付けたんだよね。 youhei が居たからじゃ俺は shinpei って。

■(爆笑)
SLAKE:やっぱりこの頃の曲を聞いていると、「社員」だったなって感じがするんだよね。言われた通りに指定された曲をそれっぽく作って、サラリーマンクリエイターとしてちゃんとやってたんだなぁと。

■最近は以前ほど曲の方向性に関するオーダーは無いようですが、今の音楽ゲームの収録曲は凄いことになっています。
SLAKE:だってこの前、これからは中二病の要素が無いと生き残れないってすごい語られて、メモまでして持ち帰って全部調べてみたけど全然分からなかった(笑)。さっきも言ったけど血と包帯があって、そういった要素が何で必要なのかも説明されたけど頭では全く理解できなくて、ただそれは自分が理解できないだけで、今の時代性としてそういった要素が無いと商売としてヒットしないという事実は理解できたかな。ただゲームを作っていた頃はクラブ感みたいなものを相当入れたと思うんだけど、そしたら今になって中二病で返されて…「中二病に負けた」って書いておいて(笑)。ただ商売っていうのはそういうもので、トランスにしても最初はスピリチュアルな方向だったものがいつの間にかギャルが踊ってましたっていう、変なことになるんだよね。日本の特徴なのかな?

■確かに音楽ゲームが出た当時は今ほどいわゆるオタク系のコンテンツが陽の目を見ていなかったという状況があって、ここ最近になってそういった趣味が市民権を得るようになり、その流れで今の音楽ゲームを取り巻く状況が自然に形成されていったのかもしれません。
SLAKE:昔じゃ企画書なんかでもいわゆる東方※24とか上海アリス幻樂団※25みたいな要素は無い物として完全に無視されていたけど、今時の企画書だとそういった要素を抜かしてはマズいとまで言われているからね。それくらい市民権を得て…ただ当初の目的からはそれちゃったっていう(苦笑)。

■…少し暗い話になってきたので他愛も無い質問をさせて下さい。牛丼は吉野家/松屋/すき家どちら派ですか?
SLAKE:○屋には絶対行かない。器や店の雰囲気に由来してるのか、何か家畜感というか、動物を感じて嫌だから…。それに対して○○家や○○家はそういうのを感じないんだよね。と言っても最近は行かないけれど、○○家は前に食べたらお腹を壊したことがあって、そうなると○○家しか行かないってことですね。

■よく分かりました。あと、ゲーム制作という立場から離れた今でも音楽ゲームに触れることはありますか?という質問もありました。
SLAKE:離れた今でもというか、会社にいた頃から触っ…申し訳ないけど(苦笑)。ただ仕事でバグテストのようなことをやっていたから、その影響でという面はあるかもしれない。これは会社にいた頃から散々言ってたんだけど、自分の中でゲームは「ゼビウス※26」で終わっちゃってるので。そこで止まってしまったのでそこから先については全然分からないです。

■でも「ゼビウス」は真面目にプレイされていたんですね?
SLAKE:ちゃんとソル※27とか出したりして。

■ゲームの話になったので聞いてしまいますが、 DENIM (ELECTRO MIX) のゲーム譜面を作られたのは…
SLAKE:たぶん自分じゃないかな? ちゃんと覚えてはいないですけど。…自分ってこう、ゲームの最後の方で殺すっていうの有名だったんでしょ。さっき言った通り、ゲームのことなんて会社に入るまでは全然分からないから、いわゆる「ゲーム性」というものを会社で教えられて…最初に掴みがあって、中盤で少し苦労させて最後にボスキャラが登場するのがゲームだっていう…自分がそういう単純なゲーム性しか理解していないので、それがそのまま反映されていたのかもしれない。

■その結果、いわゆるラス殺しというキャラクター性というか、個性が自然に定着してきたというわけですね。
SLAKE:仕事の思考として単純な結果そうなっちゃったわけだ。それにしても会社に入ってみて周りは皆ちゃんとゲームのことを知っていて、自分だけ知らなかったからもう焦ってしまって、来るところ間違えたんじゃないかというくらい(笑)。

■あと、過去にゲームの公式サイトで SLAKE さんがジャンルを語るみたいなコーナーが始まって、そのまま何も始まらずに終わったことが有りましたが(笑)。
SLAKE:それも結局のところサラリーマンだからやらされてたんだろうね。何となく覚えているけど、何かテーマを決めて書けって言われて、それがそのうち他の人の記事も流れちゃったからラッキーみたいな。

■コーナーを中止した時の言い訳で「やっぱり音楽は自分で感じて勝手に楽しむのがベスト」と仰っていましたが、今の自分の座右の銘です(笑)。
SLAKE:それ面倒臭くなっちゃっただけだよね(笑)。本当はやりたくないけど無理やりテーマを決めさせられてやらなくて良くなったから無理やり理由を付けて…サラリーマンやってるならよく分かるでしょ?

■分かります(笑)。
SLAKE:流れだけ見るとずっこけるよね。何か始まるのかと期待させるだけさせておいて終わっちゃって…。でも自分ってそれなりに良いこと言ってると思うんだよね、コメントとかで。

■Twitter 上では SLAKE さんの過去のコメント等を呟いている bot※28 なんかもありますね。
SLAKE:知ってる知ってる。いつだったか人から「Twitter やってるの?」って言われて「変なことばっか言ってるでしょ」って。何のことかと思ったらその bot のことで、俺じゃねえっていう(笑)。あれ bot って知らない人が見たらわけわからないことばっか呟いてるバカな人みたいじゃん(笑)。

■時間もおしてきましたので、質問を続けさせて頂きます。 3.11 以降、分野を問わずいわゆる文化人の方々がネット上などで政治にコミットするような発言をする機会が増えてきた印象がありますが、そのような文化人や音楽を生業とされている方々がファンの人たちに向けて政治的な発言を投げかけるという行為についてはどのような印象を持たれますか?
SLAKE:それはつまり坂本龍一※29さんとかそういった人たちの事でしょう? 全然アリでしょう。それくらいの緊急事態なわけだから、音楽家とか関係なく、人間として発言権のある人なら言えることを言った方が良いと思いますよ。皆やれみたいな(笑)。本当にあの震災をきっかけにして、いつ破滅してもおかしくないっていう意識で生きていかなきゃいけなくなったわけだから…。これこのまま暗く終わるのも良いんじゃない?(笑)

■ちょっとは希望を持たせてください(笑)。何か明るいメッセージなどはありませんか?
SLAKE:その、ゲームの音楽に携わるようになって、自分の名前がここまで残るようになるとは思っていませんでした。恐らくあのまま DJ やってたら、移り変わりが激しいシーンだったし自分なんて消えてたんじゃない? 知ってる DJ の人たちもどんどん去っていったし…。自分はたまたま音楽ゲームの全盛期的な部分に絡んでいたおかげで名前が今も残っているという…本当にゲームユーザの皆さんのおかげです。いま他の仕事をするにしても、経歴としてやっぱり一番目立つのは音楽ゲームに関わっていたという部分だから、ゲームの力は本当に凄いなと。

■しっかり書き残しておきます。また唐突な質問になりますが、カラオケには行かれますか?
SLAKE:カラオケは大嫌い。もう恥ずかしくて歌えないよね、新入社員の時に無理やり歌わされたのが本当に辛くて。歌知らないと演歌に逃げちゃうから「与作」歌って誤魔化してた…こんなこと聞いても仕方ないんじゃないの?(笑)

■いえ、今までなかなか表に出ることのなかった意外な一面が垣間見えてよろしいかと思います。どうしても真面目だったり硬派なイメージをまとわれている印象がありますので。
SLAKE:ただそういうイメージ戦略?は当たってたと思う。ドラムンベースに例えちゃうけど Photek※30 みたいな、ああいったやり方を参考にしていた部分はありますね。凄い派手なシーンの中でクールなことをすると凄く目立つような…そういう意識を持ったおかげで、音楽ゲームの中でクール系みたいな位置にいられたというのはあるかもしれない。

■Photek は今日たまたまジャニス※31で CD を借りてきたところです。
SLAKE:ジャニスってまだあるんだ?俺もスゲー行った行った。流石に最近は行かないけど、ジャニスでインダストリアル※32の CD とか借りまくってた。ノイズ※33やインダストリアルみたいな音楽を知ったのが大学生くらいの頃だったかな、高校の頃からノイズとか聞きまくっている友人がいて、そいつの家に行ったら死体のジャケットが並んでたっていう(笑)。当時のアングラではああいうのが流行っていたんだろうけど、今考えたら最悪だよね。Photek はどれ借りたの?

■ "Form & Function※34" っていう、初期の音源集ですかね?エクスペリメンタル系?の Lee Gamble※35 っていう人がこの中の収録曲をジャングルのマイベストとして挙げていて気になったので。
SLAKE:"The Ring of Saturn", この曲が名曲なんだよね。当時ロンドンに行った友人からあっちでずっとこの曲がかかってたって教えられて、行ってみたらもう別の曲が流行ってたんだけど…でもこの曲は本当に思い出が強い。いま聞いても良い曲だと思います。

■SLAKE さんについては、「ジャングル」ではなく「ドラムンベース」というイメージを自分は持っています。
SLAKE:ジャングルとはやっぱり別だよね。ジャングルの方がちょっとバカっぽいというか…

■日本人のアーティストでお気に入りの人などはいらっしゃいますか?
SLAKE:コーネリアス※36なんかは結構ちゃんと聞いてるね。

■コーネリアスといえば「攻殻機動隊※37」の新作で音楽を担当すると発表されたばかりですね。
SLAKE:「攻殻機動隊」といえば驚いたのが、友人の女性のお兄さんが神山健治※38さんだったっていう。もうビックリしちゃって、擦り寄りたいって思った(笑)。…ちゃんと観たのは押井守※39さんが監督していた方で、押井守作品はちゃんと観たかな…ってそんなこと言ったらドラえもんだってちゃんと観てたぞっていう(笑)。 "AKIRA※40" なんかも含めてジャパニメーションには結構影響を受けたかな。あと「ブレードランナー※41」や「スターウォーズ※42」なんかにも物凄い影響を受けちゃって、あまりにも影響が強くて頑張って排除したからね。

■スターウォーズはどのエピソードがお好きなのでしょうか?
SLAKE:忘れちゃったけど DVD なんかもちゃんと揃えていて、どちらかというとフォースじゃなくてあの、悪い方の、シスに飲み込まれそうな日常です(笑)。フォースでありたいけどシスの方に押されているような…T○S にもシスはいるらしいよ(笑)。

■勉強になります。 SLAKE さんといえば「サイバー」というイメージがありますが、そのルーツが垣間見えたような気がします。
SLAKE:それ本当は止めたいんだよね。「伝説のサイバートラッカー」みたいな…最初にドラムンベースをリリースしたときにそういうキャッチコピーを付けられたのがそのまま浸透してそのまま残っちゃったのかな?あの頃は「サイバー」って単語がまだそんなにダサくなかったけど、「サイバートランス」なんてのも出ていよいよおかしなことになっちゃって、今となっちゃ「サイバー」って超恥ずかしいでしょ。古い近未来みたいな。ギャグでウケるならまだいいんだけど…。今はサイバーは卒業して北欧が好きです。

■北欧と言っても様々な文化圏がありますが、例えば…。
SLAKE:ちょっと聞いたのはmúm※43みたいなフォークトロニカとか。そういえば "LOVE IS DROWING" って曲は、 Bjork※44 を真似したつもりが日本人のヴォーカルだとちょっと違って失敗しちゃったかなっていう曲です。Bjork がエレクトロニカ全盛の時に出した "Vespertine※45", あれは凄く良かったよね。良すぎて助けられちゃったもん。サラリーマンなら戦わなくちゃと思っていたところに「降伏していいよ」みたいな歌を聞いて「あっ、降伏していいんだ…」と、凄く癒された思い出がある。

■そういった、音楽に救われたとか人生に影響を与えた経験というのは…
SLAKE:そりゃあ沢山あるでしょ。

■同じように、ご自身が曲を作られる際にリスナーをこういう方向に突き動かしたい!みたいな衝動を曲に込められたりしますか?
SLAKE:無いと思うけど、曲を聞いた人は犯罪は起こさないで欲しい(笑)。「SLAKE の曲を聞いたせいで犯罪に走った…」なんて言われた日にゃもう暮らしていけないもん。他は何も…ただ本当のことを言えば、自分はただ気持ちいい音質を追求してるだけ。テクノの人だから音の質感の凄さみたいなものを自分は追求してて、他の人だと昔の音楽ゲームでも作曲の人が多かったからコードとかには凝るんだけど音の質感にはあまりこだわってなかったかな?自分は逆にコードとかが得意ではなかったので、質感をウリにしていましたね。一応バンドブームの頃にキーボード担当だったからバイエル※46の後のツェルニー※47まではやったんだけど、全然上達しなかったから。…なんだか呑んでもいないのに酔っ払って昔は良かったってぼやいてるおじさんみたいになっちゃってるけど(笑)。

■お酒はあまり飲まれないんですよね?
SLAKE:少しはビール飲むよ。…俺、別にそんな特殊な生物じゃなくてちゃんと普通の人間だからね、ちゃんと書いておいてね(笑)。ちゃんと湯上りのビール美味いみたいな感覚は持ってますし、普通でありたい。このインタヴューもちょっとあまり変なおじさんみたいな感じではなくちゃんとまとめておいてね? 前も Twitter でワッキー※48が色々書いてたせいでボケ老人みたいになっちゃってないかって(笑)。

■年を取られても、いわゆるその生業とされている電子音楽的な分野への興味は尽きないのでしょうか?
SLAKE:本心で言えば、仕事でやってなければ卒業していたかもしれない。仕事でやってるから追いかけなきゃみたいな気持ちはどうしてもあるし、追ってると面白いっちゃ面白いんだけれども。周りの人間を見ても俺みたいに仕事でやってたりレーベル運営してるような奴や、あとは遊び人?くらいしかこういう音楽を聞かなくなっちゃってるから。俺もいつ卒業するのかな?と。

■仮に卒業されたら、どのような仕事や趣味をといったヴィジョンはお持ちですか?
SLAKE:以前に真剣に一度考えたことがあって、家具が本当に好きで家具職人になりたいと(笑)。実際になった元デザイナーの友人もいたりはするんだけど、今はそこまで思っていなくて、まだこの道でやれることをやりたいかな。

■よく分かりました。…かなりお時間も頂いてしまったのでそろそろ締めの質問とさせていただきたいのですが、きのこ※49派でしょうか、たけのこ※50派でしょうか?
SLAKE:それは、どっちでもいいかな(笑)。

■クールな立ち位置で素敵だと思います。本日はお忙しい中ありがとうございました!
(文責・インタヴュー/Metaphone, 姫川かごめ Special Thanks: Kent Alexander)


01:コミックマーケット準備会が主催する世界最大規模の同人誌即売会。^
02:物語を音楽で綴る日本の音楽ユニット。同人音楽シーンで認知度を高め、 2008 年に「蒼白シスフェリア」でメジャーデビュー。^
03:Richard David James. イギリスのミュージシャンによるプロジェクトの一つ。代表作として "I Care Because You Do", "drukqs" 等。^
04:主に Aphex Twin のアルバム "Selected Ambient Works 85-92", "Selected Ambient Works Vollume II" を指す。^
05:イギリス出身のミュージシャン。Plastikman 等の名義を使い分け、アシッドの再復興やミニマルシーンの拡大に多大な影響を与える。^
06:Matthew Hawtin. 兄の別名義である F.U.S.E. のアルバム "Dimention Intrusion" のアートワークを手掛けた。^
07:1990 年に Richiew Hawtin と John Acquaviva によって設立されたレーベル。^
08:Matthew Hawtin "Once Again, Again" (Plus 8)^
09:珈琲所 コメダ珈琲店。^
10:「日経スペシャル カンブリア宮殿 ~村上龍の経済トークライブ~」。テレビ東京系列等で放送されているドキュメンタリー番組。^
11:小説家。「限りなく透明に近いブルー」で芥川賞を受賞。^
12:村上龍による小説。 1980 年に第 3 回野間文芸新人賞を受賞。^
13:アメリカ合衆国の企業。 1994 年にウェブブラウザ "Netscape Navigator" をリリースし World Wide Web の普及に貢献したが 1998 年、 AOL により買収された。^
14:電子楽器のブランド名。ブランド名の由来である AKAI professional M.I. 株式会社は 2005 年に経営破綻。^
15:特定の人種が居住する区域や貧民街などを指す。^
16:2008 年に Flying Lotus によって設立されたレーベル。 The Gaslamp Killer, Daedelus, Lorn 等の作品をリリース。^
17:従来のダブステップより過剰にベースが強調され、 EDM 等のコマーシャルなシーンに接近したサウンドを区別するために発生したサブジャンル。代表的なアーティストとしては Rusko, Skrillex 等。^
18:カリフォルニア出身のミュージシャン。代表作に "Los Angels", "Cosmogramma" 等。^
19:アメリカのアクション映画シリーズ。^
20:2010 年に宇川直宏が開局した日本初の ustream ライブストリーミングスタジオ兼チャンネル。^
21:Electronic Dance Music の略称。^
22:茨城県出身の DJ. 代表作に "Strictly Turntablized", 「覚醒」等。^
23:清水洋平。日本のミュージシャン、プログラマ。^
24:「東方Project」と呼ばれるゲーム、書籍、音楽 CD 等の作品群や、それらを取り巻くムーブメントを指す。^
25:ZUN が運営する同人サークル。主に「東方Project」に代表される同人ゲーム、同人音楽を制作。^
26:1983 年にナムコから発表されたアーケードゲーム。^
27:「ゼビウス」のゲーム内に登場する隠しキャラクター。発見し破壊することでより高いスコアを獲得することができる。^
28:@SLAKEbot^
29:東京都出身のミュージシャン。「教授」の愛称で知られ、Yellow Magic Orchestra のメンバーとしても活躍した。代表作に "B-2 Unit", "BTTB" 等。^
30:Rupert Parkes. LA 出身のミュージシャン。 1990 年代のドラムンベースシーンを代表するアーティストだが、近年はダブステップ等のベースミュージックシーンへの接近が顕著。代表作に "Modus Operandi", "Solaris" 等。^
31:東京都の神保町にある CD レンタル、販売店。 8 万枚の在庫を抱え廃盤や稀少盤などを広く取り扱う。^
32:音楽ジャンル。代表的なアーティストとして "Throbbing Gristle", "Einstürzende Neubauten" 等。^
33:音楽ジャンル。代表的なアーティストとして "Merzbow", 「非常階段」等。^
34:Photek が 1998 年に Virgin から発表したアルバム。過去のシングル作品がコンパイルされている。^
35:イギリスのミュージシャン。 1990 年代のジャングルのミックステープや海賊放送をサンプリングして制作された楽曲を含む "Diversions 1994-1996" を 2012 年にリリース。^
36:日本のミュージシャンである小山田圭吾によるプロジェクト。代表作に "FANTASMA", "POINT" 等。^
37:士郎正宗による漫画作品。劇場版アニメや TV アニメ等の派生作品が多数存在する。^
38:日本のアニメーション監督。代表作に「攻殻機動隊 STAND ALONE COMPLEX」、「東のエデン」等。^
39:日本の映画監督。代表作に「うる星やつら 2 ビューティフル・ドリーマー」、「GHOST IN THE SHELL / 攻殻機動隊」等。^
40:大友克洋による漫画作品。 1988 年に劇場アニメ化された。^
41:アメリカの SF 映画。 1982 年公開。原作は Philip K. Dick の "Do androids dream of electric sheep?"^
42:George Lucas によるアメリカのスペースオペラ映画シリーズ。^
43:アイスランドの音楽ユニット。サンプリングを多様したエレクトロニクスと様々な生楽器による演奏が融合したサウンドが特徴。代表作に "Yesterday Was Dramatic - Today Is OK", "Go Go Smear the Poison Ivy" 等。^
44:アイスランド出身のミュージシャン。代表作に "Homogenic", "Vespertine" 等。^
45:Björk が 2001 年にリリースしたスタジオアルバム。^
46:ドイツの作曲家 Ferdinand Beyer による「バイエル教則本」を指す。ピアノ奏法の入門書として知られている。^
47:オーストリアの作曲家 Carl Czerny による「ツェルニー教則本」を指す。前項の「バイエル教則本」より難易度が高いことで知られている。^
48:@wac_toriaezu^
49:きのこの山。株式会社明治が製造・販売するチョコレートスナック菓子。たけのこの里ほどの人気は無いと思われる。^
50:たけのこの里。株式会社明治が製造・販売するチョコレートスナック菓子。きのこの山より人気が高いと思われる。^


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